『ウルフウォーカー』短評
先月末に公開された、『ウルフウォーカー』を観てきました。面白かったです。極私的には年間ベスト級の傑作アニメだと思います。一部ネタバレも含まれますので、ご覧の際はご注意ください。
カートゥーン・サルーンJP公式(「ウルフウォーカー」10/30公開) (@cartoonsaloonjp) | Twitter
カートゥーン・サルーン、ケルト三部作完結
— カートゥーン・サルーンJP公式(「ウルフウォーカー」10/30公開) (@cartoonsaloonjp) 2020年10月9日
10月30日公開「ウルフウォーカー」
眠ると魂が抜け出しオオカミになる“ウルフウォーカー”
中世からアイルランドで密かに伝えられてきた伝説#ウルフウォーカー #カートゥーン・サルーン #オオカミ #アイルランド伝説 #新津ちせ #池下リリコ #井浦新 pic.twitter.com/FAa8stqJjf
アニメ映画「ウルフウォーカー」が大傑作である「5つ」の理由 「もののけ姫」に通ずる、オオカミの象徴 (1/3) - ねとらぼ
アニメ映画「ウルフウォーカー」が大傑作である「5つ」の理由 「もののけ姫」に通ずる、オオカミの象徴 (2/3) - ねとらぼ
アニメ映画「ウルフウォーカー」が大傑作である「5つ」の理由 「もののけ姫」に通ずる、オオカミの象徴 (3/3) - ねとらぼ
カートゥーン・サルーンのケルト三部作完結編は、前2作を上回る完成度にして、過去最もエンタテイメントとしての強度の高い傑作になりました。「ポスト・ジブリ」とも称されるカートゥーン・サルーン。過去作品も美術・演出・音楽などの面では高い評価を受けてきました。そして、ジブリアニメの影響を恥じることなくひけらかす画面構成。日本人的な視座からすると、日本にジブリの後継スタジオがないことに悔しさを覚えつつも、ケルトの意匠をまとっているとはいえどこか借り物的な匂いがしていたものです。また、寓意性の高い物語はファンタジーとして正当な系譜に属するものでありながら、エンタテイメントとしての強度はそこまで高くなく、観ていてやはり物足りなさを覚えていました。だから『ソング・オブ・ザ・シー』は年間ベストの考慮からはじいたんですが。
しかし、今回の『ウルフウォーカー』はそれら極私的なマイナス評価を全てぶち壊してくれました。上のリンク先にもありますが、『もののけ姫』や『かぐや姫の物語』の影響を色濃く残しながらも、過去のジブリ作品に全く劣らぬ美しい画面は、「絵」が動くというアニメーションの源流に通じる豊かな表現です。水彩画や鉛筆画のタッチで構成された森の自然の風景は解放的で古代アイルランドに根付いていた自然とオオカミへの畏敬を想起させ、シンメトリックな街の描写とうまく対照され人間界と異界との区分けを分かりやすく伝えてくれます。また、2Dも3Dも自在に駆使したダイナミックなアクションは、それだけでも観る価値があると思います。
2人の少女を主人公にした物語の構造はいたってシンプルであり、それゆえに心に響きます。自然や異界の者が人間の抑圧に立ち向かう、少女が大人や男の抑圧に立ち向かう姿は、フェミニズムの意匠をまといながらもペイガニズムの精神が受け継がれたものでもあるでしょう。敬虔なピューリタンである護国卿を悪役として描いたことには正直違和感もありましたが、人間と自然や異界との共存を言祝ぐラストは、主題の提示をあいまいにしてお茶を濁した『もののけ姫』よりもむしろ物語として完成・昇華されたものだといえます。エンタテイメントとしての強度が非常に高い作品になりました。
過去作の実績から一部のミニシアター上映にとどまっていますが、是非上映館が拡大されて多くの方に観てほしい作品です。