『刑事何森 孤高の相貌』短評
今回のレビューは9月に発売された〈デフ・ヴォイス〉のスピンオフの短評です。
〈デフ・ヴォイス〉シリーズの名脇役・何森刑事を主人公に据えた短編集です。本編では結構苦労人で、心にもかなり翳が差している気がしたので、扱いがよくなってほしいと思っていたのですが、心の内が少しですが開陳されて、読者としてはほっとした感じです。幸福に至るにはまだまだ道のりがありそうですが・・・。
いずれの短編もミステリとして堅固に構築されており、いつもの弱者に寄せる優しいまなざしや人の情念に優しく触れる手触りは健在です。何森は冷静に犯人を追い詰めながらも、犯人の過去に触れてその心を汲み取って癒そうとしています。犯人が身体障碍者であるなど重いテーマを扱っていますが、文体が適度に軽いので、ページを繰る手にためらいは生じません。
いつもの穏やかでほんのりとした読後感。殺伐としたニュースや他者への配慮を欠いた言説が飛び交う昨今、このようなあたたかな眼差しの作品をたまには読みたいものです。