otomeguの定点観測所(再開)

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遅ればせながら、第17回翻訳百景ミニイベント「ファンタジーを徹底的に語ろう!」 への反応

 かなり反応が遅れてしまいましたが、今年の5月にあった翻訳百景のミニイベント「ファンタジーを徹底的に語ろう!」 の採録ファイルを読みました。仕事の都合で行けなかったイベントなので、楽しみにしていたんですよね。今回はその感想に伴うテキストです。

 【児童文学サイドから見たファンタジー総括】

d.hatena.ne.jp

techizen.cocolog-nifty.com

http://techizen.cocolog-nifty.com/blog/files/fantasy_20160521.pdf

 上記のリンク先からPDFファイルで採録が拾えます。リンク先のブログでは「貴重な資料」とか「英米独のファンタジーの歴史が非常にわかりやすく説明されている」とか書かれていますが、どうなんでしょう。一読しての印象は片手落ちな総括であるという印象でした。

 ファンタジーという文学ジャンルにおいては、読者も研究者も関係者も、児童文学サイドとエンタテイメントのサイドに分かたれていて、両者が互いに架橋する意識が薄いという悪しき因習があります。今回の採録を読む限り、児童文学から見たファンタジーの総括としてはよくまとまっていると思いますが、残念ながら悪しき因習を忠実に踏襲してしまっています。

 しかし、英米の総括においてはSFやホラーの流れをくむジャンル小説としてのファンタジーに触れておらず、幻想文学への目配りが薄く、ファンタジー史のまとめとしては最も大きな流れを完全に見落としています。ジャンル・ファンタジーで言及されたタイトルは〈ゲド戦記〉のみで、タニス・リーもビーグルもバロウズもハワードも出てきませんでした。パルプマガジンに端を発し、SFを母胎として育まれたジャンル・ファンタジーに一言も触れない総括はさすがにひどいと思います。

 日本のファンタジー小説の片翼であるライトノベル・ファンタジーへの目配りもありませんでした。せいぜい小野不由美に触れた程度でしたね。翻訳のイベントなので、もちろんメインで言及する必要はありません。しかし、日本のファンタジーが海外で紹介されている事情を語るなら、どう考えてもライトノベルやアニメの翻訳・紹介事情に触れないとだめでしょう。さらに、日本のファンタジーについて、「西洋の物真似」にすぎないとか、「記紀神話みたいな日本人のオリジンと言えるような神話」を生かしていないとか言われていますが、それってネガティブなことなんですかね。ライトノベルの記号的ファンタジーをきちんと追っていないという臭いがかなりします。

 なんだか批判ばかりになってしまいましたが、ファンタジーに限らず、ジャンル小説の実像を正確に把握するのは非常に難しいことなのだと改めて実感しました。最近、児童文学の読書量が落ちているので、人を批判するなら、自分も言い訳せずにちゃんと読まないとだめですね。まだまだ私の読書量が足りないということも実感しました。