極私的回顧第28弾は翻訳のファンタジーです。ジャンルSFに関連する作品のうち私がファンタジーとみなしたもの、および児童文学のファンタジーの中で私がアダルト・ファンタジーとみなした作品についてまとめています。また、いつものお断りですが、テキスト作成のために『SFが読みたい』およびamazonほか各種レビューを参照しております。
2018極私的回顧その20 ファンタジー(海外) - otomeguの定点観測所(再開)
2017年極私的独白その20 ファンタジー(海外) - otomeguの定点観測所(再開)
2016極私的回顧その20 ファンタジー(海外) - otomeguの定点観測所(再開)
【マイベスト5】
1、パリンプセスト
体にその地図が描かれた人間と性交することで到達する街、パリンプセスト。4人の男女が文字通り交わり合いながら徐々にパリンプセストの地図を完成へと近づけていきます。幻想の香気漂う文体、酩酊するような官能の描写、緻密な混沌として折り重なる世界。物語ることそれ自体が読者を幻想へと誘う、ファンタジーの精髄たる作品です。2019年に読んだ内外のSF・ファンタジー系の作品の中ではこれがベストワンでした。
2、翡翠城市
特殊な翡翠を身につけて異能の力を行使する世界、台湾や香港のような雰囲気の島を舞台にマフィアの抗争を描いたアジアン・ノワールです。宝石を用いた魔術の設定がよくできています。また、適度にケレン味の利いた文体でアップテンポに物語が疾走していて、ミステリの視座から見ても単体のノワールとして十分な出来だと思います。
3、翼ある歴史 図書館島異聞
前作『図書館島』の続編で、前作が外部の異邦人からの視点で語られたのに対し、この作品は内乱に関わった4人の女性による内側の視点で語られており、前作とは異なる真実が見えてきます。正史だけではない、歴史の光と影、表と裏が紐解かれていくのが興味深いです。また、言葉そのものをテーマとして根本問題的な戦いを描いた、前作の魅力はきちんと引き継がれており、ファンタジーとしての完成度は高いです。
マビノギオンの翻訳は過去に出版されたことがありますが、ウェールズ語からのほぼ完訳となるとこれが初めてのはず。マビノギオンを巡る神話・歴史・地理的背景や研究状況に至るまで詳細な解説・註解がついており、資料としての価値が高いです。ファンタジーファンであればぜひ手元に1冊。
5、傭兵剣士
過去何度か出版されている、トンネルズ&トロールズのソロ・アドベンチャーの中でも名作といえるものです。いやあ、懐かしい。各所にブラックユーモアがばらまかれており、またPCがさくっと死ぬという初心者にも容赦ないつくりですが、これがT&Tのスタイルです。T&Tの雰囲気をつかむには、やはり「傭兵剣士」「青蛙亭再び」から入るのがいいでしょう。
【2019年とりあえず総括】
2018年の感想と重なりますが、2019年の翻訳ファンタジーにおいては、ランキングに入れたような『パリンプセスト』『翼ある歴史 図書館島異聞』など濃度の高いファンタジー作品もいくつか見られました。しかし、全体として屹立したコア・ファンタジーの数は少なく、前年同様あまり作柄は良くなかったと思います。まあ、そもそも作品数の多いジャンルではありませんが。
2019年、世界のファンタジーシーン最大の話題といえば、何といっても『ゲーム・オブ・スローンズ』最終章でしょう。念のためネタバレは避けますが、極私的には大きな不満を残して終わりました。精緻に組み上げてきたパズルのピースを最後の最後にぶちまけてしまった。脚本の出来が悪いとすべてぶち壊れるんだなあと。原作小説を尊重すべきだったと切に思います。
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