極私的回顧第28弾は翻訳のファンタジーです。ジャンルSFに関連する作品のうち私がファンタジーとみなしたもの、および児童文学のファンタジーの中で私がアダルト・ファンタジーとみなした作品についてまとめています。また、いつものお断りですが、テキスト作成のために『SFが読みたい』およびamazonほか各種レビューを参照しております。
2020極私的回顧その28 ファンタジー(海外) - otomeguの定点観測所(再開)
2019極私的回顧その28 ファンタジー(海外) - otomeguの定点観測所(再開)
2018極私的回顧その20 ファンタジー(海外) - otomeguの定点観測所(再開)
2017年極私的独白その20 ファンタジー(海外) - otomeguの定点観測所(再開)
2016極私的回顧その20 ファンタジー(海外) - otomeguの定点観測所(再開)
【マイベスト5】
1、ファイティング・ファンタジー・コレクション 火吹山の魔法使いふたたび
極私的にこれは文句なしの1位。私がSF・ファンタジーはまったきっかけは、小学校の頃に触れた社会思想社の〈ファイティング・ファンタジー〉のゲームブックでした。文庫本をボロボロになるまでやり込んでアランシアをさまよった記憶が鮮やかによみがえる、感涙のセットです。同じく昨年出版の『トロール牙戦争』に関わる、アランシアの悪の魔術師たちが登場する『火吹き山の魔法使い』『バルサスの要塞』『モンスター誕生』、本邦初訳の『火吹き山の魔法使いふたたび』、そして悪名高きポート・ブラックサンドを舞台にした『盗賊都市』。小学生当時、もちろんドラクエでも散々遊びましたが、やはり私にとってのファンタジーの原風景は、薄汚れた街、煙たい酒場、血と汗と泥にまみれた登場人物たちです。すでに第2弾も予約を開始しているので、皆様も是非。
2、キルケ
ギリシャ神話に登場する悪名高い魔女・キルケ。男性視点では悪役として語られる彼女の物語を、魔女自身の女性視点から変奏した作品です。魔女という蔑称を自らのアイコンとして引き受け、異端ながら自立した一人の女性として生きるキルケの姿は、神話の衣をまとった現代の女性たちに捧げられた物語です。
3、猫の街から世界を夢見る
ラヴクラフト〈ドリーム・サイクル〉をベースとした作品であり、狂気の神々が支配する夢の国々を巡る冒険遍歴です。いうまでもなく数限りなく書かれてきたラヴクラフトへのオマージュの一つですが、ラヴクラフト自身には欠けていた女性的視座が導入され、自立した女性を主人公とすることで、新たな色を纏った物語として成立しています。
4、蒸気の国のアリス
表題からお察しの通り、『不思議の国のアリス』を本歌取りしたスチームパンクです。いかれた設定と登場人物とガジェットがてんこ盛りにされ、メタフィクション的な語りと仕掛けが各所にばらまかれ、文字通り血と臓物が飛び交う冒険活劇です。濃密さとねじの外れ方が半端ではなく、高いオリジナリティを有するダーク・ファンタジーです。惜しむらくは、300部限定の同人出版のためもはや入手困難であるところ。どこか商業ベースで出版してくれませんかね?
5、ゴリランとわたし
2021年の児童文学枠です。一見、里親として孤児をひきとったゴリラと少女の心温まる交流の物語ですが、里親のゴリランは詐欺まがいのジャンクを売りつける商売で生計を立て、子供がいるのに不潔な生活をし、少女ヨンナもまったく良い子ではない、曲者同士の二人です。しかし、一緒の時間を過ごすうちに強い絆に結ばれていく姿に徐々に惹きこまれていきます。人生は厳しく思い通りにならず、きれいごとばかりでは生きられない。だからこそ人生は素晴らしい。絵空事で塗り固められた児童文学より、よほどためになる作品でしょう。
【とりあえず2021年総括】
1位や4位にあげた作品のような限定版や豪華版に手を出したため、極私的には満足できる1年でした。しかし、客観的に見ると、アダルト・ファンタジーにおいても児童文学においても、コア・ファンタジーと呼べる骨太な作品がほとんど見られず、作柄は今一つだったように思います。もともと層の薄いジャンルであり、豊作と呼べる年のほうが少ないのですが。2022年は是非、骨太な作品が出版され、このジャンルが活性化されることを願いたいです。