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otomeguの定点観測所(再開)

文芸評論・文化評論・思想・社会科・国語表現・性文化・スポーツ観戦・科学・飲み食い・与太話 【一部、性的に過激で頭のおかしな記事があります】

2016極私的回顧その18 SF(海外)

 極私的回顧もようやく本丸、ジャンル濃度の最も高いSFに入ってきました。まずは海外SFからまとめていきます。作品によっては近接ジャンルのファンタジー・幻想文学などに配置しているものもあります。あと少しなので、飽かずお付き合いいただければ幸いです。なお、いつものお断りですが、テキスト作成のために『SFが読みたい』およびamazonほか各種レビューを参照しております。

 【マイベスト5】 

SFが読みたい! 2017年版

SFが読みたい! 2017年版

 

 

1、翼のジェニー 

翼のジェニー〜ウィルヘルム初期傑作選 (TH Literature Series)

翼のジェニー〜ウィルヘルム初期傑作選 (TH Literature Series)

 

 まさかまさかのケイト・ウィルヘルム復活です。昨年のSFセミナーで 岩田恵さんの予告を聞いて楽しみにしていた刊行ですが、期待にたがわぬ秀作の短編揃いでした。個人的には、ロマンチックな恋愛をみずみずしく描いた表題作の「翼のジェニー」、そして世界で一番美しい女の真実を怪奇幻想の風味で描いた「この世で一番美しい女」がおすすめです。ウィルヘルムのリリカルで技巧に富んだ世界を堪能できる短編集です。

otomegu06.hateblo.jp

 ウィルヘルムといえばやはり『鳥の歌いまは絶え』ですね。ジェンダーとかニューウェーブとかではなく、ウィルヘルムの本領は緻密さと引き出しの多さにあることがよく分かる作品です。ディストピアSFですが彼女独自のヒューマニズムが通底していて、人類の行く末と救済を描き切っています。個人的にはサンリオSF文庫の中でもトップ10に入る作品なのですが、再刊されていません。 

鳥の歌いまは絶え (1982年) (サンリオSF文庫)

鳥の歌いまは絶え (1982年) (サンリオSF文庫)

 

鳥の歌いまは絶え ( 読書 ) - 50過ぎて悪あがき(往生際が悪い男のブログ) - Yahoo!ブログ

  

2、さようなら、ロビンソン・クルーソー (〈八世界〉全短編2) 

 ヴァーリイの日本オリジナル編集〈八世界〉シリーズ作品集・第2弾。各短編とも魅力的ですが、やはりここは定番の「ブラックホールロリポップ」。ブラックホールを資源として収集する主人公が直面する孤独と恐怖と狂気を描いた秀作です。怜悧な視点から人類の宇宙拡大の歴史を描くヴァーリイの筆は、21世紀の現在においても全く古びていません。

 

3、クロックワーク・ロケット 

クロックワーク・ロケット (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

クロックワーク・ロケット (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

 

  シンプルかつ大胆に物理法則をいじり、独創的なハードSFを作り上げるのは、やはりイーガン。〈直交〉宇宙の描写もさることながら、この宇宙独自の相対性理論が精緻に組み上げられていく様と、絶滅の危機から種族を救うために展開される稀有壮大なアイデア。ハードSFを読む悦びを味わうことができる作品です。先月シリーズが完結し、また1つイーガンの記念碑が増えました。 

アロウズ・オブ・タイム (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

アロウズ・オブ・タイム (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

 
エターナル・フレイム (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

エターナル・フレイム (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

 

 

4、死の鳥 

  遂にハーラン・エリスンも復活。ネオ・クラシックSFの復刊ブームに感謝しなければなりません。管理社会との飽くなき戦いを描いた名作「「悔い改めよ、ハーレクィン!」とチクタクマンはいった」、人類の誕生から終末までを神話的スケールで描いた表題作「死の鳥」など、エリスンの魅力が凝縮された短編ばかりです。エリスンの未訳作品はまだまだ残っているので、是非今後の展開も期待したいところです。

 

5、あまたの星、宝冠のごとく 

  ティプトリーの自殺の翌年に刊行された短編集です。リリカルに琴線を刺激する語り口にはやはり麻薬的な魅力があります。ティプトリーには化物級の短編が数々あるので、それらと比べるとやや見劣りは否めませんが、それでも十分に高いレベルの短編たちです。死後も終わることのない労働にとらわれる男の悲哀を描いた「死のさなかに生きてあり」、あろうことか地球という星に恋をした女性の悲劇/喜劇を描いた「地球は蛇のごとくあらたに」あたりがおすすめですかね。 

老いたる霊長類の星への賛歌 (ハヤカワ文庫SF)
 
故郷から10000光年 (ハヤカワ文庫SF)
 
たったひとつの冴えたやりかた 改訳版

たったひとつの冴えたやりかた 改訳版

 

 

【2016年とりあえず総括】

 ベスト5を決めるのが極めて難しい、豊饒な1年でした。

 2016年最大の動きはクラシックSFの盛り上がりでしょう。かつてクラシックといえば三巨匠をはじめとする1940・50年代の作品群でしたが、60~80年代の作品もすでにネオ・クラシックの域に入っています。これらクラシックおよびネオ・クラシックSFが次々と刊行され、大豊作となりました。ベスト5に入れた以外にも、ヴァンス、スラデック、ベイリー、バラード、ウルフ、スミス、ハーバート、ル・グイン、ジャクスンと再刊や新訳がずらりと並び、翻訳の質も高かったと思います。どれをランクインさせるか迷った結果、多くの傑作がランク外にはじき出されてしまいました。ウルフはファンタジーに、ジャクスンは幻想文学に回しましたが。

宇宙探偵マグナス・リドルフ (ジャック・ヴァンス・トレジャリー)

宇宙探偵マグナス・リドルフ (ジャック・ヴァンス・トレジャリー)

 

  

  

  

ウィザードI (ウィザード・ナイト)

ウィザードI (ウィザード・ナイト)

 
ウィザードII (ウィザード・ナイト)

ウィザードII (ウィザード・ナイト)

 

  

 

デューン 砂の惑星〔新訳版〕 (上) (ハヤカワ文庫SF)

デューン 砂の惑星〔新訳版〕 (上) (ハヤカワ文庫SF)

 
デューン 砂の惑星〔新訳版〕 (中) (ハヤカワ文庫SF)

デューン 砂の惑星〔新訳版〕 (中) (ハヤカワ文庫SF)

 
デューン 砂の惑星〔新訳版〕 (下) (ハヤカワ文庫SF)

デューン 砂の惑星〔新訳版〕 (下) (ハヤカワ文庫SF)

 

  

 

日時計

日時計

 

 ネオ・クラシックのムーブメントははまだまだ続きそうなので、2017年もヴィンテージのワインを味わうような悦楽を愉しめそうです。  

Stand On Zanzibar (S.F. MASTERWORKS) (English Edition)

Stand On Zanzibar (S.F. MASTERWORKS) (English Edition)

 

  

Blue Mars

Blue Mars

 

  ネオ・クラシックが華やかな一方で、現代の作家の紹介も安定していました。ケン・リュウはファンタジーに回しましたが、例年ならピーター・トライアスやアン・レッキーはベスト5に入る作品です。しかし、ネオ・クラシックの群れに押されて圏外にはじき出されてしまいました。他にもマーク・ホダー、ガレス・パウエル、エンミ・イタランタと佳作がありましたから、一昔前ならこれでマイベスト5です。決して現代SFの翻訳が低調だったわけではありません。

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン 上 (ハヤカワ文庫SF)

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン 上 (ハヤカワ文庫SF)

 
ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン 下 (ハヤカワ文庫SF)

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン 下 (ハヤカワ文庫SF)

 

  

星群艦隊 (創元SF文庫)

星群艦隊 (創元SF文庫)

 
叛逆航路 (創元SF文庫)

叛逆航路 (創元SF文庫)

 
亡霊星域 (創元SF文庫)

亡霊星域 (創元SF文庫)

 

  

月の山脈と世界の終わり〈上〉  (大英帝国蒸気奇譚3) (創元海外SF叢書)

月の山脈と世界の終わり〈上〉 (大英帝国蒸気奇譚3) (創元海外SF叢書)

 
月の山脈と世界の終わり〈下〉  (大英帝国蒸気奇譚3) (創元海外SF叢書)

月の山脈と世界の終わり〈下〉 (大英帝国蒸気奇譚3) (創元海外SF叢書)

 

   

ガンメタル・ゴースト (創元SF文庫)

ガンメタル・ゴースト (創元SF文庫)

 

   

水の継承者 ノリア

水の継承者 ノリア

 

  現代からネオ・クラシックまで様々な作品が刊行されることは、現在の日本SFの読者層が厚いことの証左といえるでしょう。また、思弁的実在論のため批評の可能性も広がっているので、そちらの展開も楽しみです。 

モノたちの宇宙: 思弁的実在論とは何か

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現代思想の転換2017: 知のエッジをめぐる五つの対話

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