otomeguの定点観測所(再開)

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ロンドン世界陸上総括

 毎度毎度の遅ればせですが、今夏のロンドン世界陸上について、極私的に思うところを書き連ねてみたいと思います。

 【メダルの目標は達成】

 結果としてメダルは銀1・銅2。競歩と400mリレーという、当初からメダルを目指していた種目での獲得ですから、これは予定通りの目標達成というところですね。

 まずは400mリレーですが、選手を入れ替えながらもチーム力を落とさず、かつメダルをキープできたというのは、非常に大きな収穫です。短距離の層が厚くなってきたということと、大きな大会で実力を発揮できる選手が揃ってきたということ。サニブラウンについてはさらなる成長が見込めますし、日本の短距離にはまだまだ伸びしろが感じられます。何より素晴らしいのは、ライバルとして互いに切磋琢磨しながらも、リレーにおいては一体となって戦うという、短距離チームのバランスのよさです。世界を意識して戦っている選手が有する意識の高さと清々しさ。国内でコップの中の低レベルな争いに明け暮れるどこぞの選手たちも見習ってほしいものです。

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 そして競歩。数年前まで長距離・マラソンの陰に隠れたマイナー種目でしたが、いまやメダル獲得のために日本陸上を支える存在となりました。長年の地道な強化、競歩全体がチームとして一体となった取り組みが成果として表れました。民放で競歩がフルで生中継されるんですから、時代は変わったものです。アフリカ勢が本格的に参入していない・・・、箱根駅伝の落ちこぼれが・・・、などと陰口をたたく向きもありますが、世界を相手に競歩チームが一体となって地道に実績を積み重ねてきた末に今があるのです。これからも、いい意味のライバル関係とチームとしての一体感を保ち続けてほしいものです。

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【取り残される長距離・マラソン】

 上の2種目以外は目立った成果がなく、東京五輪に向けて厳しい総括が出ていましたが、とりわけ長距離・マラソンは深刻です。男子も女子も好材料がほとんどなかった大会でした。

 とりわけひどいのは男子長距離でしょう。5000mも10000mも標準記録突破者が出ず、大迫を含めて1人も代表選手を送れないという体たらくでした。まさか世界陸上の舞台にさえ立てないとは。一応、大迫はオリンピック翌年だしボストンマラソンを走っているし少し状態がよくないから・・・なんて言い訳が通用しますが、国内の実業団の選手たちは何をやっていたのでしょうか。箱根駅伝を筆頭として駅伝病にうつつを抜かしてきた結果、想定を超えた最悪の状態に陥りました。大迫には次の世界陸上に向けてまだ立て直してくる期待ができそうですが、コップの中の争いにかまける選手たちに期待するのはもうやめるべきなのでしょうか。

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 男子マラソンの川内と中本は実力を出したと思います。何だかんだ言っても、一発屋に終わらず10年代の男子マラソンを牽引し続けてきたのは間違いなくこの2人です。まずは2人の労をしっかりねぎらわなけれないけません。できれば川内には入賞で有終の美を飾ってほしいところでしたが、相手との力関係を考えれば妥当な範囲内です。「勝つチャンスがあった!」と息巻いていた御大もいましたが、何を言っているのやら。有望な若手も見当たらないし、日本男子マラソンの未来はまだまだ暗そうですね。

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【世界陸上】世界の“二線級”相手に完敗 男子マラソン代表一新へ

 女子の長距離はまあこんなもんです。入賞の手前まで行ったんですから、よく健闘した方です。何とか代表選手こそ送り込んでいますが、かつてのレベルにないのは明らかなので、まずは塩漬けになっている10000mの日本記録を更新し、選手間にレベルの高い競争意識を作ることでしょう。まずトラックで選手たちが上を目指して競り合う状況を作らなければ、女子マラソンの再生もありえません。男子は10000mの日本記録が突破されてもなーんにも状況が変わらなかったんですが・・・。

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 女子マラソンは入賞はいってほしいと思っていたんですが、不甲斐ない結果でしたね。持ちタイムを考えれば余裕でついていけるペースだったはずですが、安藤は早々に脱落し、清田も勝負どころの軽い揺さぶりで脱落。マラソン経験の浅さや、チームの夏マラソンのノウハウのなさが影響したようですが、そこをサポートするのが陸連のチームではないの? 瀬古は何をやっていたんですかね。日本代表は若手に経験を積ませる場ではなく結果が求められる場です。プロランナーでありながらプロ意識に欠ける、日本の実業団の甘さを垣間見たレースでもありました。

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 念のため書いておきますが、日本の実業団の長距離選手は、ほとんどがアマチュアではなくプロランナーです。日本では実業団選手をアマチュアと呼び、海外の賞金レースを転戦する海外選手たちをプロと位置付けていますが、「日本の選手こそプロではないか」というのは昔から言われていることです。企業チームに所属して雇用と給与が保障され、社会保険が完備していて、競技に専念できる環境があり、引退後の仕事まで保証されている。世界でも屈指の安定した競技環境であるにも関わらず記録が低迷しているのですから、甘ったれているといわれても仕方のないところでしょう。

 北海道マラソンから東京五輪への代表選考が始まったと報道されましたが、関係者の利害を適当に調整してコップの中の争いを複雑化させただけに過ぎません。何度か書いていることですが、選手選考においては札幌・さいたま・福岡・別府大分・大阪・びわ湖・名古屋のローカルマラソンは無視して、日本唯一のメジャーレースである東京マラソンでの一発選考に男女とも集約すべきだと思います。

 今年ももうすぐ駅伝というコップの中の争いが始まります。同時にマラソンシーズンにも突入します。この暗澹たる状況に少しでも光明が見えるといいのですが。