当ブログには生物系の恐らくニッチを突いているであろうテキストがいくつかありますが、多分今回もそんな系統のテキストになります。寄生虫の画像などがありますので、閲覧の際にはご注意ください。
トゲアリトゲナシトゲトゲとトゲナシトゲアリトゲナシトゲトゲ - otomeguの定点観測所(再開)
【突然ですが先日の『ダーウィンが来た!』から】
毎度毎度の遅ればせですが、先日の『ダーウィンが来た!』で小笠原の海が取り上げられていました。
ダイオウイカの赤ちゃんと思われる生き物や深海魚の赤ちゃんなどをはじめ、珍しい生物が次々に登場してきて非常に楽しかったのですが、極私的に最も興奮したのは、リボンイワシが出てきたところでした。
そういや先日のダーウィンでリボンイワシことクジラウオの幼魚紹介されてたんだよな 生き物番組はほぼチェックしてるがクジラウオがきちんと紹介されたのはダーウィンとBS朝日の遥かなる深海大冒険シリーズだけ pic.twitter.com/8orGTsrALb
— しいな (@siina_kentaLAW) September 12, 2018
WEB上では「リボンイワシの赤ちゃん」という誤った紹介をされているところもありますが、このいい方は事実誤認です。また、番組内では親の画像としてオレンジのクジラウオが紹介されていましたが、これは中途半端な紹介です。
リボンイワシ、クジラウオ、ソコクジラウオ | アナン・インターナショナル(画像元)
番組内で紹介されていたクジラウオはメスの成魚です。上のイラストにある通りオスの成魚はソコクジラウオといって、メスとは全く異なる姿をしています。さらに、オスもメスも稚魚のときは細長いリボンイワシの姿をしています。三者三様の全く異なる姿なので、クジラウオ、ソコクジラウオ、リボンイワシがそれぞれ別の魚であると考えられ、別の科に分類されていました。そして、クジラウオはメスの成魚のみ、ソコクジラウオはオスの成魚のみ、リボンイワシは幼魚のみしか見つかっていなかったので、それぞれ不可解な魚であると思われていたわけです。
しかし、DNAを調べた結果、2009年にこれらが同じ魚のオス・メス・稚魚であることが分かり、ソコクジラウオ科とトクビレイワシ科(リボンイワシ科)が消滅して、クジラウオ科に統合されました。今後はオス・メス・稚魚の正確な組み合わせを突き止めていくことが研究課題になるそうです。
・・・という話は以前にもテキスト化しておりますが、
極私的にリボンイワシは変わった形態が好きな魚で、また幼魚しか見つかっていないという点に面白さを感じていました。そして、細長い姿のまま、1メートル以上ある特異な姿の魚が概要を泳いでいるかもしれないと想像していました。そのため、この3科統合のニュースを聞いたときは、期待とは異なる真相に何だか落胆を覚えたものです。
・・・ダラダラ長くなってしまいましたが、つまりは、子どもしか見つかっていないリボンイワシという分類群がかつて存在した、という前置きです。
【ようやく本題のY幼生】
リボンイワシについては無事(??)解決しました。しかし、地球上には、19世紀から発見されていて何種類も記載されているのに、幼生しか見つかっておらず、幼生のみで分類群を形成している生物が存在します。それが本日の本題、Y幼生です。
不思議いっぱい、Y幼生の生態: なにわ海洋生物研究所(別館)
謎の甲殻類「Y幼生」の人工変態に成功 | 特集記事 | NatureJapanJobs | Nature Research
http://www2.tba.t-com.ne.jp/nakada/takashi/scripts/develop.html
上のリンク先の内容と重複しますが、Y幼生は甲殻類のプランクトンです。甲殻類をはじめ海の生物の多くは幼生時代をプランクトンとして送りますが、これもその一種です。初めて発見されたのは1899年と結構古いですが、欧米ではあまり研究が進んでこなかったようで、珍しい生物だとされてきました。しかし、1980年代から日本近海でいくつも採取され、特に沖縄で40種も採取されて、ぐっと種数が増えたそうです。しかし、依然として成体は見つかっておらず、幼生のみで彫甲下綱という独自のグループを形成しています。
Y-幼生という成体が見つかっていない謎の幼生。
— 叱咤過侮離のtapa (@tapa46) February 8, 2018
ハンセノカリスHansenocaris属のみで構成され、彫甲下綱Facetotectaという独自の階級が与えられています。フジツボやフクロムシ、シダムシなど節足動物にすら見えない異形の者ばかりの鞘甲亜綱を構成する一翼。
画像引用https://t.co/Fr8XDq3kqd pic.twitter.com/MwuyNL2kZS
Y-幼生はキプリス幼生までは見つかっており、ホルモンを弄って脱皮させてみたところ生まれてきたのは歪な肉塊のような蠕虫。恐らくはフクロムシのような寄生性の生態だと考えられています。https://t.co/lkCv72wjgLhttps://t.co/K5fnNgfbbS pic.twitter.com/ALbjrSaUIL
— 叱咤過侮離のtapa (@tapa46) February 8, 2018
Y幼生が所属するさらに上の階級である鞘甲亜綱は、フジツボ、コペポーダ、シダムシ、フクロムシなど、甲殻類の中でも変わった形態や習性を有するとんがった連中です。コペポーダは以前にテキスト化しています。
シダムシはヒトデにつく寄生虫ですが見たことのない人が多いでしょうし、
カニに寄生するフクロムシを見たことがある人は案外多いと思いますが、この塊みたいなものが節足動物であるとは想像しがたいでしょうし。
カニの心と体を完全に乗っ取るフクロムシ<したたかな寄生 脳と体を乗っ取る恐ろしくも美しい生き様 >成田聡子 - 幻冬舎plus
不思議でふしぎな寄生生物“勝手にベスト5” | ナショナルジオグラフィック日本版サイト(画像元)
Y幼生も成体は寄生虫で、シダムシやフクロムシのような生態をしているのではないかと思われます。未発見ということは、シダムシやフクロムシのように目立つところではなく、例えば魚の体内とか、発見が困難な場所に寄生していると考えるのが妥当でしょう。もし発見されれば生物学上の一大イベントになる(??)と思われますが、残念ながらこの10年、新しいニュースはありません。
上のリンク先にもありますが、最も新しいニュースは、2008年にY幼生の人工変態に成功し、幼生の段階を進ませることができたというものでした。
自然状態でキプリス幼生までは見つかっていて、それが次の段階「イプシゴン」まで進みました。フジツボの場合、キプリス幼生が固着して脱皮を行って成体になりますが、Y幼生についても成体の一歩手前まできているということですね。上のツイートにもあるように、あとは成体まで何とか飼育できればいいのですが、次の変態に必要なシグナルが未解明のため、なかなか難しいということでしょう。
是非、成体発見のニュースをこの目で見たいものですが、果たしていつになるのやら。