『考えるナメクジ』短評
今回のレビューは先月発売の科学ノンフィクションです。とある生き物の写真・図版が多く、読み手をかなり選びそうな本ではありますが・・・。
面白いです。この手の本は、筆者の偏愛がびしびし伝わってくる偏った記述と他の本にはないような独自の写真や図版、そしてネタの開陳が魅力なのですが、まさにスマッシュヒット。文章も平易で読みやすいので、科学の読み物としては良書の部類に入ると思います。ただし、最初にも書いたようにナメクジについて扱った本なので、そこで読み手をかなり選んでしまいますね。
筆者の態度で極私的に共感できるのは、人間とナメクジを生物学的に対等に扱う態度です。人間とナメクジの脳を同じ位相で比較するのではなく、ナメクジの脳や神経は人間とは別位相で進化してきた、人間の認知や知能とは全く別の原理で組み立てられたものとしています。その上で、ナメクジの優れた学習能力やニューロンの再生能力など、興味深いエピソードが紹介されています。サイエンスにおける人間中心の視点、他の生物を無神経に「原始的」「下等」と扱う記述などを私は嫌っていますが、筆者のナメクジ視点に立った文章はなかなか心地いいです。
手塚治虫『火の鳥』でナメクジが地球を支配して文明を築くなんてエピソードがありましたが、案外、数億年後は彼らの世界になっているかもしれませんね。