逸木裕『銀色の国』短評
今回のレビューは先月発売の逸木裕『銀色の国』です。
プレイヤーをマインドコントロールして集団自殺へを導くVRゲーム及びその開発者と、自殺対策NPOの会長との戦い。最新のVRガジェットや技術を盛り込み、現代社会の生きづらさや閉塞感を現出させつつ、両者の攻防がアップテンポで進むサスペンス。自殺願望を抱く少年少女の思春期特有の切ない感情がにじみ出してきます。希望のあるラストで終わっているので読後感は悪くないですね。まあミステリとしては佳作の部類に入るでしょう。
しかし、ミステリ作家の欠点である科学・技術的描写や心情描写の稚拙さなどは結構露になっていて、他ジャンルの視座や評価軸を入れてしまうと印象が変わってきます。作者の技術的成長を願いつつ、ミステリの視座にとどめておくのが穏当でしょう。