極私的回顧ようやくオーラス。例年通りですが予定より大きく遅れてしまいました・・・。科学ノンフィクションについては、ジャンル全体を俯瞰するのが難しいため、ベスト5の感想のみにとどめております。また、いつものお断りですが、テキスト作成のために『SFが読みたい』およびamazonほか各種レビューを参照しております。
2018極私的回顧その24 科学ノンフィクション - otomeguの定点観測所(再開)
2017年極私的回顧その24 科学ノンフィクション - otomeguの定点観測所(再開)
2016極私的回顧その24 科学ノンフィクション - otomeguの定点観測所(再開)
【マイベスト5】
1、キリン解剖記
日本に2人しかいないというキリンの研究者、若手の女性研究者による本です。全体がキリンへの愛に満ち溢れていて、かつ非常に分かりやすく書かれています。キリン研究というとアフリカでのフィールドワークを連想するかもしれませんが、彼女が行っているのは日本の動物園で死んだキリンの解剖です。直接触ることによっていろいろ分かることがあるそうで、例えば、キリンの首があれだけ自在に動かせるのは、首の骨だけでなく首の付け根につながっている胸骨も動かせるからだそうです。偏愛と熱にほだされたこちらの本を2019年のベストワンに推します。
2、鳥の骨格標本図鑑
川上和人といえば日本を代表する鳥類学者ですが、こういうものも集めていたんですねえ。羽毛をはぎとると細部が見えてきて、例えばペンギンの足は結構長いとか、翼の骨が鳥によってこれだけ違うとか、鳥の機能についてより深く知ることができるとのこと。まさにコレクター魂が炸裂した本だといえるでしょう。説明文もいつもの面白い川上節が躍っているので安心です。生き物好きの方にはマストアイテムでしょう。
3、動物園から未来を変える―ニューヨーク・ブロンクス動物園の展示デザイン
動物園における自然体験、いかに自然に近い状態で動物を展示するか、そして絶滅危惧種の保存をいかに行っていくか。これら現代の動物園の役割については、賛否両論あるはずです。その巨額のお金を現地の自然保護に振り分けたほうがいいのではないか。しかし、都市の人々に自然教育を施すため、動物園は重要な役割を果たしている。一部の生物種は動物園なしでは存続不能になっている。動物園の功罪について複雑な感想を抱きました。問題提起として読むべき本だと思います。
4、恐竜の教科書: 最新研究で読み解く進化の謎
最新の恐竜研究に基づく内容で、恐竜について体系的にまとめられた好著です。資料や図版が豊富なうえ、日本の恐竜についての情報もかなり補足されており、大部でありながら密度の濃い編集になっています。しかし、あくまで「教科書」なので、ある程度の専門知識がないと読み解けない部分があります。
5、我々は生命を創れるのか 合成生物学が生みだしつつあるもの
昨年のさいこんでも企画がありましたが、藤崎慎吾が合成生物学の研究者およい研究内容についてまとめたルポルタージュです。合成生命が完成の一歩手前のところまできているのを見ると、SF者や科学好き的には胸が躍りますが、倫理的には危険な面がいろいろ想起されてしまいます。
シリコニーは普遍生物学の夢を見るか - 第58回日本SF大会 彩こん Sci-con
通常のブルーバックスが科学者による著作ないし冷静なサイエンスライティングであるのに対し、この本はルポ的とはいえいつもの藤崎節で書かれていて、かつ藤崎慎吾が興味の向くまま丁々発止(??)のやりとりをしています。このつくりは、私には楽しかったのでランクインさせましたが、amazonレビューにもあったように賛否が分かれるところだと思います。