『進化のからくり 現代のダーウィンたちの物語』
毎度毎度の遅きに失したレビューで恐縮ですが、久しぶりのサイエンスのテキストです。今年2月発売のブルーバックスのレビューです。
2017年極私的回顧その24 科学ノンフィクション - otomeguの定点観測所(再開)
以前、当ブログでも取り上げたことのある『歌うカタツムリ』。進化生物学について平易に書かれていてカタツムリ愛に溢れた科学ライティングの好著でしたが、その千葉聡の最新作が今回取り上げる『進化のからくり』です。
ただし、この本は普通にブルーバックスを読むノリで読み始めると肩透かしを食らう可能性があります。ブルーバックスは一般に科学解説書であり、一線の専門家が私たち一般読者に科学の前線の話題を平易に説明してくれるものです。そのため、その内容は科学的事象・知識にまつわる記述が大半を占めます。しかし、科学ノンフィクションを読む面白さは、読者が自分の興味のあるテーマについての知識を面白く摂取することもありますが、一方で、研究者たちの情熱や人間性に触れる面白さ、科学者たちの心地よい変わり者ぶりを楽しむという側面もあります。『進化のからくり』はエッセーに近いノリで後者の魅力を摂取するための本です。
特に、ミウラ君、ヒラノ君という2人の若手研究者と筆者のエピソードが秀逸。進化を巡る謎解きの物語が、その苦闘の過程、ブレイクスルー、そして最後のオチに至るまでまるで一本の短編小説のようなパッケージになっていて面白いです。筆者が前書きでこの本の目的として書いているのは「進化学ファンを増やすこと」。そのために筆者が科学ライティングの持てる技巧を尽くしているのがよく分かります。しかし、それゆえに、新しい科学的知見を得る目的でこの本を読むと、消化不良に陥る可能性もあるでしょう。言ってみればチェンジアップ気味の科学ノンフィクション。読み手によって評価が分かれてくると思います。