『コンプレックス・プリズム』短評
今回のレビューは3月に発売された最果タヒさんのエッセーです。
最果タヒ(Tahi Saihate) (@tt_ss) | Twitter
最果タヒの本は詩集もエッセーも残らず読んでいるはずですが、多分その中でもかなり気楽に読める本。でも読んでいて読者をうまく内省に誘ってくれる本。ひたすら最果タヒ自身の内へ内へと向かっている言葉たちなのに、読者の中にも自然にするする入ってくるのはいつもの彼女の節回し。
「自分自身に傷をつけて、不透明な自分のあちこちを光に当ててみる」
コンプレックスがあったっていいじゃない。劣等感とか傲慢さとか自分の醜い部分は直視したくないものだけど、それも含めてやっぱり自分であり他者。安易な自己啓発やスピリチュアルに嫌悪を唱えながらも、不器用にやけくそに自分の傷を撫でまわし、でも自分に他者に誠実であれ、自分を他者を愛せと叫ぶ最果タヒの言葉は、いい年したおっさんなのにひねくれていて愚かな自分の内になんだか熱く清々しくこだまします。
以前のレビューで書いたことのコピペになってしまうけど、抽象性と身体性、矛盾したガジェット群の同居するナイーヴな言葉たちを技巧にくるんで読者に提供できる巧みさ、透明感とぬくもりがあって読者の身体と精神の欠如に沁みいってくる血と熱。詩の鑑賞だと語の吟味に琴線を張りつめさせないといけないけれど、エッセーなら自然体で吸い込めます。
2016極私的回顧その11 詩 - otomeguの定点観測所(再開)