野村美月 むすぶと本。『外科室』『さいごの本やさん』の長い長い終わり 短評
今回のレビューは野村美月の新作です。ずっと待っていた方も多かったはず。久しぶりに彼女の世界を堪能できました。
4年ぶりの新作は全盛期のクオリティに劣らない傑作でした。
『外科室』は往年の「文学少女」と同じテーマの、本と会話できる少年のお話です。それぞれの本が抱えた想い、そして本を受け取る読者たち、お互いの機微が丁寧に描かれた、優しくて切なくて美しいですが不快で厳しく醜さもある、多彩な襞を有した物語です。だからこそ、本にとって読み手は、読み手に取って本は、大切です。野村美月の語りは文章が美しいゆえに読者の琴線に刺さります。夜長姫は遠子先輩を彷彿とさせて可愛いし、昔懐かしの名前もなんか出てくるし・・・いや、これ以上はネタバレをしない方が吉ですね。
『さいごの本やさん』は、店主の死に伴い閉店することになった書店の人間模様を描いた連作短編集です。『外科室』に比べると主人公たちの露出は控えめで、本と本屋を巡る物語が静かに綴られています。思い出は本屋が閉まっても時がたっても確かに刻まれ、そこにある。本の価値を信じることのできる物語です。
極私的には今年度のラノベのベスト候補の一角です。実力者の帰還に改めて祝杯を挙げつつ、シリーズの続編が早く出ることを祈ります。