『香港の歴史』短評
怠けていたため久々の書評記事になりますね。今回のレビューは7月に明石書店から発売された本についてです。
香港の民衆及び自治及び民主主義に対し、中国共産党が圧政を加え、若者たちが異議を申し立てる。欧米が形ながらの中国批判を行い、日本政府が沈黙する。現在の香港で耳目を集める政治状況です。しかし、そもそも、香港が中国でも英国でもない香港としての独自の歴史及びアイデンティティを有しているということは、案外知られていないのではないでしょうか。私も、観光で多少廻ったり、フィクションやドキュメンタリーで香港の表層に触れたり、最近は政治的な関心もあったりしますが、香港の真相については何も知らない気がします。
この本の著者はアメリカ国籍ですが香港生まれの香港育ち、現在香港大学の教壇に立つという、香港のアイデンティティを持つ香港人です。香港人が内側から紡いだ香港史ということで、香港史の書籍は日本では初の刊行になるそうです。意外な気もしますが、日本の関心の偏りがこの辺にも出ているのでしょうか。
筆者の視点はあくまで中立。中国にも英国にも偏ることなく、香港人として香港を見つめつ冷徹なものです。華僑・華人たちが政治的関心を避けて経済的繁栄に注力してきたのは英国植民地の統治下において長らく政治にかかわることが許されなかったからですが、それがかえって香港人としてのアイデンティティの基盤を作っていったとのこと。中国に返還される一国二制度の状態を香港人は歓迎していましたが、徐々に中国共産党が圧力を強めるにつれ、香港人たちのレジストは強まり、アイデンティティもまた固められた様子です。自由と民主に基づき圧政に抵抗するという表面的な姿も間違いではないですが、香港の真相は独自に紡いできた社会と歴史と人の強さと多様性と紐帯にあるのだと感じさせる本です。
香港が中国化するのか、一国二制度が保たれるのか、中国が民主化するのか。現実的には大陸からの圧力によって香港が中国化しています。しかし、香港にとっての理想は、香港が一つの独立国として自立することなのでしょう。