otomeguの定点観測所(再開)

文芸評論・表象文化論・現代思想・クィア文化・社会科・国語表現・科学コミュニケーション・初等数理・スポーツ観戦・お酒・料理【性的に過激な記事あり】

第20回 文化庁メディア芸術祭感想

 相変わらずの遅ればせですが、先日閉幕した第20回・文化庁メディア芸術祭に行ってまいりましたので、軽くそして雑駁ですが感想をまとめてみたいと思います。

【まあ例年並み】

festival.j-mediaarts.jp

東京オペラシティ東京オペラシティは、新宿のとなり初台にある、オフィス、コンサートホール、美術館、 レストラン、ショップからなる複合施設です。

 毎年足を運んでいるイベントですが、今年は昨年までの国立新美術館から東京オペラシティにメイン会場を移しての展示でした。2フロアに分かれていたため移動にやや手間取りましたが、まあ、展示は例年通りでしょう。各部門とも手堅くまとまっていた印象で、十分に楽しむことができました。20周年とはいえ、既に定型がしっかりしているイベントですので、無理に新機軸を入れる必要もなかったということでしょう。

 受賞作品に関しては、国内作品は既に見知っているものも多いので、いつも通り新機軸の評価コメントや批評軸がないかについて探索する視座において見物でした。そして、例年通り新しい視座は得られませんでした。マイナー作品を引き上げる努力をもう少し審査員はやったほうがいいんじゃないかなー、と感じるのも例年通りでしたね。『シン・ゴジラ』『君の名は』の大賞受賞については、両者とも傑作であることは間違いないとはいっても、何だか激しく違和感が湧きました。メディ芸の大衆迎合っぷりについて今さらぼやいても栓ないことですが。

 けなしているように聞こえるかもしれませんが、別に批判しているわけではありません。例年通りに楽しめたといっているだけのことです。

 

【本年の収穫】

 今年は内外のアート系アニメの受賞作品・ノミネート作品に収穫が多かった印象した。この辺りの作品はチェックしきれておらず、未見だったものも多いので、印象に残ったものについては年度が違うことをお構いなしで今年度の極私的回顧にぶち込ませていただきます。

 では、極私的に気に入ったものをいくつか紹介しておきましょう。

 

・Among the black waves

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 古代ケルトの伝説をもとにした11分の短編です。ストーリーラインは普遍的なものであり、展開も登場人物の心情も推測できてしまうという、観る側にとっては不親切な側面もあります。しかし、定型であるからこそ男女や親子の心情の機微を深く描くことができており、構図と演出に長けた稀有な成功例といえる作品です。墨絵のように粗いですが繊細で滑らかな2Dアニメーションと、時折差し込まれる暗色の演出が、非常に効果的で印象的です。そして、重厚で重層な手描きのアニメが醸し出す素朴で力強い作家性も美味です。2016年にチェックできていなかったことが悔やまれる傑作です。

 

・I Have Dreamed Of You So Much

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叶うことのない愛を唄う〜Robert Desnosの詩の世界〜 | CREM(クリム)|GIF漫画やコラム連載で そこはかとなく好奇心を刺激するクリエイターの秘密基地。

ロベール・デスノス―ラジオの詩人

ロベール・デスノス―ラジオの詩人

 

ロベール・デスノス - Wikipedia

ロベール・デスノス(Robert Desnos):詩の翻訳と解説

ロベール・デスノス Robert Desnos 1900-1945 - 日本アートNipponArtのブログ - Yahoo!ブログ

 これも2016年に未見だったことが非常に悔しかった作品です。

 第二次世界大戦中に活躍したロベール・デスノスの詩『J’ai tant rêvé de toi』をアニメーション化した意欲作です。豊かな色遣いと繊細な筆致に彩られ、美術展の抽象絵画がアニマを有したようなメタモルフォーゼとマチエール。大胆な構図と斬新な構成を併せ持つ美術的な価値。メディア芸術祭の選評で触れられていたのはここまでです。しかし、ロベール・デスノスシュルレアリスム詩の美しく歪んだ不条理で不可思議で夢幻でリリカルで超現実的な・・・しかしシュルレアリスム詩の中では最も想像力豊かで切なく感動的な永遠の愛を謳ったデスノスの詩世界を、現代の感覚で包み込んで見事に映像化し、我々の感性と琴線を増幅してのけたという文学的価値も、併せて高く評価すべきアニメーションだといえるでしょう。

【詩の原文】

J’ai tant rêvé de toi que tu perds ta réalité.
Est-il encore temps d’atteindre ce corps vivant et de baiser sur cette bouche la naissance de la voix qui m’est chère ?
J’ai tant rêvé de toi que mes bras habitués, en étreignant ton ombre, à se croiser sur ma poitrine ne se plieraient pas au contour de ton corps, peut-être.
Et que, devant l’apparence réelle de ce qui me hante et me gouverne depuis des jours et des années, je deviendrais une ombre sans doute.
O balances sentimentales.
J’ai tant rêvé de toi qu’il n’est plus temps sans doute que je m’éveille. Je dors debout, le corps exposé à toutes les apparences de la vie et de l’amour et toi, la seule qui compte aujourd’hui pour moi, je pourrais moins toucher ton front et tes lèvres que les premières lèvres et le premier front venus.
J’ai tant rêvé de toi, tant marché, parlé, couché avec ton fantôme qu’il ne me reste plus peut-être, et pourtant, qu’à être fantôme parmi les fantômes et plus ombre cent fois que l’ombre qui se promène et se promènera allégrement sur le cadran solaire de ta vie. 

【翻訳のリンク先】

夢(Rêves):ロベール・デスノス - 壺 齋 閑 話