2017年極私的回顧その5 ミステリ系エンタテイメント(海外)
年末年始と多忙だったため、すっかり更新の間が空いてしまいました。しばらく時間が取れるので、ここで溜まったものをできる限り吐き出す予定ですが、すぐにまた忙しくなるのでどうなりますやら。とにかく、飽かずお付き合いいただければ幸いです。いつものことですが、テキスト作成のため『このミス』ほか各種ランキング、およびamazonほか各種レビューを適宜参照しています。
【マイベスト5】
1、13・67
既に各ランキングで絶賛されているので今さら感がありますが、2017年の海外ミステリといえばこの作品に触れないわけにはいきません。これまで華文ミステリといえば島田荘司の影響下にある本格・変格が主と思っていたのですが、この作品は社会派としても警察小説としても一級です。本格としても軸の堅固な作品ですが、あえて本格の枠から外してここに入れました。白眉はなんといっても第1話と最終話でしょう。探偵が推理不能な状況から物語が始まるサプライズと、主人公の信念が物語を第1話へと回帰させる最終話。秀逸な構成に舌を巻く傑作です。
2、フロスト始末
フロスト警部には長いことお世話になってきましたので、これで最終なのかと思うと感慨と寂しさがあります。著者・ウィングフィールドが他界してからもう10年以上経つんですね。早いものです。著者とシリーズの功績を考えると、本来なら1位に持ってきたい作品です。しかし、この『フロスト始末』に限れば物語の構成に甘さが見られます。結末のインパクトで何とかバランスをとっていますが、名シリーズの最後としては少し残念な出来になってしまいました。
3、ハティの最後の舞台
被害者・ハティを含む3人の一人称が入れ替わり、時系列を巧みに交叉しながら事件へと至る心理劇が綴られていく、一級のサスペンスです。ハティを含む登場人物の人物像が照射されて結末に収斂し、犯人像が鮮やかに浮かび上がります。各所にばらまかれたミスリードも巧みで、サプライズの要素も十分です。ただし、シェイクスピアへのオマージュとして見てしまうと、文学的には物足りない要素が見られます。あくまでミステリの枠内における評価が妥当でしょう。
4、ジャック・グラス伝
ジャック・グラス伝: 宇宙的殺人者 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
- 作者: アダムロバーツ,Adam Roberts,内田昌之
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2017/08/24
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (3件) を見る
SFからの避難民です。遠未来の人類を描いたSFとして評価するなら凡庸な作品です。しかし、SF設定を生かし、フェアプレーに徹しながら本格黄金期の薫りを漂わせる、物語の構成は重厚です。数あるSFミステリの中でも、ミステリとして最も骨太な作品の1つといえるでしょう。
5、シンパサイザー
北ベトナムが掲げた共産主義の理想(=空想)と、アメリカの豊穣でおぞましい物質主義。相反する思想を持ち合わせたスパイの半生が、現代に連なるベトナム戦争の闇を鋭くえぐり出します。一級のスパイ・サスペンスであり、政治批評・社会批評としての側面も有しています。しかし、極私的には主張を違える親友との葛藤、友情と信念の相克に胸を撃たれました。
【とりあえず2017年総括】
2017年はなんといっても華文ミステリの衝撃にとどめを刺します。これまでは島田荘司の二番煎じのような作品が大半だろうと考え、あまり気合いを入れて追ってこなかったのですが、認識を一気に改めることになりました。まだまだ不勉強ということですね。非英語圏のミステリが引き続き充実する中、これからは華文ミステリも検索の領域に加えなければなりませんが、中国語が読めないのが悔しい限りです。
北欧・東欧など他の非英語圏のミステリも引き続き充実していました。しかし、フレンチ・ミステリの翻訳があまりなかったのが極私的に不満でした。せいぜいルメートルとミニエ、ビュッシが紹介されたくらいで、もっと訳されるべき面白い作品がかなり抜け落ちている印象でした。英語に比べると翻訳者の層が薄いので、どうしても展開が遅く・薄くなってしまいます。そんなことをいったら北欧ミステリは仏語以上にハンデを負っているので、ここは各出版社と翻訳者の奮起を期待したいところです。
Ce qu'il nous faut, c'est un mort - Hervé Commère - Babelio
https://www.babelio.com/livres/Bussi-Grave-dans-le-sable/222417