『彼女の体とその他の断片』短評
交通事故で当て逃げにあい、数日療養していましたが、とりあえず本日から活動再開。ブログ更新です。
男性視点から見た世界は常にある種の正しさに溢れて優生的に凝り固まっています。しかし、それを女性視点や弱者の視点から転倒させ、多層な解釈を受け入れれば、世界は多様で美しい正しさに溢れている。男性的なナラティヴをぶち壊すのにお勧めできる小説です。
マチャドが描く異質で襞の深い物語は、読者自身の感覚に対する試薬のようなものでしょう。日常の中で何気なく抱く違和感や疑問、それを突きつめて自分の価値観の忠実であることにこそ価値がある。自分なりの物語を解釈を真実を直視して構築する。小さな声をより合わせて雑音から大きな声へと変えていく。優生的な正しさを振りかざす男どもに対して、世界を単一化してつまらなくしている輩に対して、世界は多彩な色どりで満たされた面白いものだと教えてやる。フェミニズムの視座に立つと実に快い叫びです。
ダークでアンハッピーな短編群は容易な解釈を許しません。SF、ホラー、フェミニズムなどの多彩な手法を駆使しつつ、社会に根強い性差別をえぐり出すマチャドの糾弾と怒り。暴力的に言説を抑え込もうとする男性主義者たちに対する怒り。女性を偶像化して消費する男どもに対する怒り。その一方で、LGBTQを受容し、エロスをエロスとして正面から描き、自らもレズビアンであることを公言しているマチャドの物語には、クィアな魅力も溢れています。
一人の男性読者として、紋切り型のセクシズムをはねのけるしなやかさと強さ、マチャドの物語をしっかり受け止めるアンテナの広さを持ち続けねばならないと強く感じました。