otomeguの定点観測所(再開)

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『タイムラインの殺人者』短評

 今回のレビューは先月ハヤカワ文庫SFから出た、アナリー・ニューイッツの小説としては初訳の長編です。

  

  見た目はタイムトラベルSFであり歴史改変における騙し合いについてはミステリ的側面もありますが、要するに女性視点から見てジェンダー及び人権についてまとめた小説です。ぶっちゃけてしまえば、「クソ男は死ね!」「クソ女は死ね!」とクソ女とクソ男が殴り合う小説です。男性の登場人物は人格的に問題のある連中ばかりなので男性視点で読んでいると辛い読書になりますが、これはフェミニズム視点で現実世界と照応させたつもりなのでしょう。ま、女性の登場人物も頭のねじが外れているんですが。軸となる女性主人公2人がハードな体験をしながらも時間改変によって道を切り開いていくところには、現代の戦闘的フェミニストに通じるたくましさを感じました。19・20・21世紀となっても相変わらずセックス&ジェンダーの問題が根深いものであることに怒りを覚えつつも、最後にささやかな救いがあるのでどうにか読後感が担保されています。読み手を選ぶ上に評価の難しい作品ですが、こういう尖った作品を受容できるかどうかで読者としての器が問われるような気もします。