今回のレビューは先月発売されたミルハウザーの新刊・短編集です。
ミルハウザーは毎年極私的回顧でも取り上げている私のお気に入りの作家の1人ですが、今回もミルハウザーの世界を堪能できる短編集です。日常に滲入してくる怪異や深淵を相変わらず魔術的な文章を駆使して精緻に描いています。等身大でありこの世界のすぐ近くにありながら決して手の届かない寓意の世界。此岸と地続きになっている魔術や神秘を読み手の心のひび割れから覗くカタストロフ。魔術と日常とを鮮やかに料理できる現有の数少ない作家、ミルハウザー。マジック・リアリズムという呼称には手あかがついて久しいですが、柴田元幸があとがきでミルハウザーをボルヘスになぞらえていたのには極私的には納得しています。幻想の度が強くなるごとに読み手を選ぶ度合いも高まっていますが、一読者としては開き直って追い続けるしかないんでしょうね。