『果てしなき輝きの果てに』短評
今回のレビューは5月発売のハヤカワポケミスの最新刊です。
物語の舞台はフィラデルフィア・ケンジントン。蔓延する薬物とそこに根差した売春など数々の犯罪。主人公の警官・ミッキーの妹は薬物中毒であり、犯罪捜査中に幾度となくフラッシュバックする妹の現在と過去。ケンジントンの闇をさまようように連続殺人事件の捜査は進み、薬物に関わる過去がスイッチとなるミステリ的な趣向も数か所仕掛けられていますが、それはあくまでサブテーマです。薬物と依存症が社会と家族にもたらす苦しみがメインテーマです。
このスリラーに薬物からの回復という希望はあります。しかし、中毒者が回復したとしても他者や社会から失った信頼、自ら刻んだ爪痕はしつこくつきまとい、果てのない謝罪や償いや奉仕が求められます。そして、妹を導こうとするミッキーも何が正しいのかを見失い、自分が小さなプライドに依存していることに苦悩します。果てなく続く容赦のない現実。描写の重さと生々しさにページを繰る手が何度も重くなりました。
読後感が非常に重く、リーダビリティも決して高くないです。しかし、人間社会のどす黒さに正面から対した社会派ミステリの力作として、深く読み込むべき作品です。