サラ・ウォーターズ『Tipping the Velvet』紹介
今回のテキストは不可解なことになぜか未訳のサラ・ウォーターズのデビュー作の紹介です。
Tipping the Velvet - Wikipedia
Tipping the Velvet (TV series) - Wikipedia
書評: Tipping the Velvet 「ベロードの中の秘密」 – Queer 読書
サラ・ウォーターズといえば、『茨の城』『半身』『黄昏の彼女たち』など日本でも複数の邦訳があり、『このミス』などで上位を占めてきた、実力者のミステリ/歴史小説/レズビアニズムの作家ですが、
不可解なことにデビュー作の『Tipping the Velvet』は未訳のままにとどまっています。イギリスではBBCのドラマにもなっていて、水準の高い人気作として評価されている作品です。日本でも一刻も早く訳さねばならない作品です。
牡蠣食堂で働く少女と男装の麗人の愛のストーリーで、お察しのごとくたおやかな百合の花弁が舞い散る質のものです。レズビアニズムに軸足を置いたクイアな視座、イギリス・ビクトリア朝の華やかな歴史世界、ミステリとしての多層な仕掛け、歴史小説としての堅固な作り、高いリーダビリティの中にも華のある文体など、後の彼女へとつながる諸々の要素は全て出てきます。強いて難をあげればミステリとしての仕掛けにまだ詰めの甘さが見られることですが、デビュー作として考えれば非常に高い水準であり、複数の賞に輝きドラマ化されたのも納得できる作品です。
ウォーターズの作品で未訳なのはこの『Tipping the Velvet』のみです。彼女は2014年以降新作が出ていないですが、まずはこの作品を訳して新作の登場を満を持して待つべきだと思いますが。ねえ、東京創元さん??