2020極私的回顧その1 マラソン・長距離(男子)
極私的回顧の記事を続けます。すっかり通し番号がおかしくなっておりますが、今回は今年の陸上のマラソン・長距離の総括です。まずは男子から。
2019極私的回顧その1 マラソン・長距離(男子) - otomeguの定点観測所(再開)
2018極私的回顧《スポーツ》① マラソン・長距離(男子) - otomeguの定点観測所(再開)
2017年極私的回顧《スポーツ》① マラソン・長距離(男子) - otomeguの定点観測所(再開)
2016極私的回顧プレ④ マラソン・長距離(男子) - otomeguの定点観測所(再開)
本来であれば、東京五輪が開催されるはずだった2020年。いうまでもなく、新型コロナウイルスのため、五輪は延期。競技活動についても一時中止を余儀なくされ、様々な混乱が起こりました。3月の東京マラソン以降、日本の男子選手については主だった実績がないので、特に総括なるものはありません。
しかし、東京五輪をにらんだとき、男子マラソンについていえば、むしろ準備時間がしっかりととれて、良かったのではないかと思います。東京コース暑さやコース対策ありき、熱さや湿度が日本人に有利になるという錯覚から始まったMGCという奇策に寄り掛かったレースの準備ではなく、純粋に実力勝負の、かつ十分な時間の取れる準備ができるわけですから。
2020東京マラソン⇒敢えて言いますがとりたてて騒ぐような記録ではない - otomeguの定点観測所(再開)
東京五輪マラソン日本代表・・・と新谷仁美の問題提起 - otomeguの定点観測所(再開)
昨年のMGCで決まった中村・服部、そして東京マラソンで日本記録を更新した大迫。3名が男子の日本代表。2008年の北京五輪以降、男子マラソンが夏のレースであっても一定のペースで先頭集団が飛ばすスピードレースになっていることを考えると、何とかついていけそうな実績を持っているのは大迫だけです。中村・服部については、アフリカ勢のペースにはついていかず、自分のペースでレースを進めて、落ちてきた選手を拾っていくという戦いにならざるを得ないはず。よほど気温と湿度が上がってケニア・エチオピア勢が自滅するような消耗戦にでもならない限り、入賞もかなり難しいかと思います。なんとかこの観戦オヤジの歪んだ予想を覆すような、痛快のレースを、そして日の丸がポールに掲げられる姿を観たいのはやまやまなのですが。
東京五輪については本当に開催できるのかという物理的な問題もあります。スポーツファンとしては、ここまで来たら是が非でも開催してほしい気がしますが、リベラル的な感覚ではとっとと中止にした方が身のためだと思っています。恐らく論旨が180度異なってくるので申し訳ないですが、スポーツ関連のテキストでは開催ありきで書かせていただきますのでご了承ください。
【夜明けの見えた男子長距離】
ここ数年、男子長距離については史上最低の状況が続いていると書いてきました。しかし、既報の通り、長年の鬱屈を吹き飛ばすような素晴らしい出来事がこの師走に起こりました。
【第104回日本選手権長距離】男子10000m タイムレース1組(B組)
【第104回日本選手権長距離】男子10000m優勝 相澤晃(旭化成・宮崎)コメント:日本陸上競技連盟公式サイト
【第104回日本選手権長距離】新記録樹立コメント・男子10000m 伊藤達彦(Honda):日本陸上競技連盟公式サイト
【第104回日本選手権長距離】新記録樹立コメント・男子10000m 田村和希(住友電工):日本陸上競技連盟公式サイト
【第104回日本選手権長距離】総括会見:日本陸上競技連盟公式サイト
【第104回日本選手権長距離】東京オリンピック日本代表内定選手ハイライト&インタビュー/相澤晃(旭化成)、田中希実(豊田織機TC)、新谷仁美(積水化学)
【第104回日本選手権長距離】東京オリンピック日本代表内定選手会見ダイジェスト/相澤晃(旭化成)、田中希実(豊田織機TC)、新谷仁美(積水化学)
毎度毎度の遅ればせになりますが、12月4日の日本選手権・長距離の男子10000mで相澤をはじめ3名が日本記録を突破。27分18秒75と五輪参加標準記録も突破し、相澤が見事に五輪代表内定を決めました。ここ数年、日本選手権の10000m・5000mはスローペースに堕した凡戦が続いていましたが、久しぶりに日本の男子選手による五輪標準記録を目指したつばぜり合いを見ることができて、大きな感動を覚えるレースでした。
今回の日本選手権は年末の12月開催の上、天候にも恵まれた好コンディションだったというのもありますが、長年停滞してきた男子10000mの日本記録更新。しかも、記録会ではなく日本選手権というビッグレースでの更新に大きな意味があります。
前回、2015年の日本記録更新時、これで大きな山が動いて男子長距離が活性化するのではないかと非常に期待しました。
八王子ロングディスタンス 男子10000m A組 2015年11月28日 / 村山紘太 27:29.69 日本新記録
しかし、その後、MGCでマラソンに力を入れるという言い訳のもと(??)、男子長距離トラックは記録を目指すことのない低迷に陥り、前述の通り、日本選手権は凡戦の連続。2016リオ五輪も大迫を除いて惨敗に終わり、さらに2017年以降は世界陸上やアジア大会に選手を派遣すらできないという体たらくに陥りました。
国内のレースではそれなりの結果を出せても、国際舞台でもまれた経験が少なく、大レースに弱い。日本選手の長年の弱点を男子長距離は素直に受け継いでしまっている気がします。まして、リオ五輪の後の村山ツインズのお豆腐メンタルなコメントには、二度と日の丸をつけてくれるなと怒りを覚えたものです。
これまでの日本選手権は夏開催で勝負に徹さなければいけなかったのでタイムが延びなかった、というのはただの言い訳ですね。女子の10000m・5000mが毎年派遣標準記録を巡るレースを展開し、男子でも3000mSCは標準記録を意識していたレースを行っていました。ここ数年の日本選手権の男子長距離はただ凡戦だっただけです。
A級戦犯は間違いなく旭化成でした。駅伝屋・旭化成という揶揄は当ブログでも何度も使ってきましたが、ニューイヤー駅伝では常勝軍団であり、素質に恵まれた選手を幾人も抱えながら、MGC参加選手はゼロ。長距離トラックの代表選手も出さず、駅伝でただ強いだけという内弁慶のダメチーム。相澤がようやくこの軛をぶち壊し、結果を出してくれました。本来、マラソンやトラックで日本を牽引しなければいけないのが旭化成というチームです。駅伝はどうでもいいので、これを機に本来の役割を自覚してほしいと思います。
この後、10000m・5000m・3000mSCの各種目で代表選手の人数を整える作業に入ると思いますので、各種目で日本記録破り合戦を展開し、長年停滞してきた男子長距離のレベルを引き上げ続けること。それを牽引するのが本来の旭化成の役割です。村山や鎧坂たちが縮こまっている姿など観たくありません。
今年は男子10000mで世界記録が更新されており、相澤の日本記録とはまだ1分以上の開きがあります。引き続き男子長距離の重大なミッションはまず東京五輪に参加する選手を調えることですが、東京五輪はあくまで通過点です。10000m26分台・5000m12分台に記録を引き上げ、少しでも世界に記録水準を近づけていくこと。それが巡り巡ってマラソンの強化にもつながるはずです。今回の日本選手権はまだまだ端緒に過ぎません。やることは山積みのはずです。
いつも書いていることですが、駅伝はその選手の競技力とは関係のないエキシビジョンです。しかし、日本の長距離の構造を考えれば、駅伝で切磋琢磨しながら好循環を作り、マラソンとトラックの水準を引き上げるのが正常な競技サイクルです。長年、駅伝が主となって歪んでいた構造が、ようやく正常に回り始めました。そう信じたいです。やっと明るい兆しの見えた男子長距離、2021年も選手たちが正しく切磋琢磨する姿を見せてくれることを祈ります。