今回のレビューは、先月、東京創元社から刊行された国内のミステリについての短評です。
移動図書館を舞台に日常の些細な出来事を扱う、ハートフル・ミステリの第2弾です。突飛な出来事はありませんが、前作同様に日常に根差していて安心して楽しめるミステリです。職員と利用者の交流、市内各所に起こる日常の問題など、ささやかな事件を巡る心情の機微が細やかに描かれています。
この作者の小説のレビューで以前も書いたような気がしますが、私も書店勤務の経験があるので、物語の端々にあふれる、本のある空間への愛情や、利用者に対する心配りなどには、共感できるところが多々あります。限られた空間に本ををいかに並べるかは悩ましく難しい作業ですが、書店員も図書館員もそこが腕の見せ所です。作品の端々に図書館員としての苦心・不振の跡が見られます。書店にも図書館にも引き続き逆風が吹いている昨今ですが、恐らくこんな移動図書館があったら利用したくなるでしょう。
安定した出来のコージーとして、今回も手堅くまとまった佳作になりました。