otomeguの定点観測所(再開)

文芸評論・表象文化論・現代思想・クィア文化・社会科・国語表現・科学コミュニケーション・初等数理・スポーツ観戦・お酒・料理【性的に過激な記事あり】

第21回文化庁メディア芸術祭

 当ブログ毎度の遅ればせですが、先日の日曜に閉幕した文化庁メディア芸術祭の感想です。毎年挙げているものですが、今年もまあ例年通りでした(悪口ではないのであしからず)。

【というわけで今年も例年並み】

festival.j-mediaarts.jp

第20回 文化庁メディア芸術祭感想 - otomeguの定点観測所(再開)

2016極私的回顧その14 アニメ - otomeguの定点観測所(再開)

 今年もいってまいりました、文化庁メディア芸術祭。昨年の東京オペラシティからいつもの国立新美術館に戻り、例年通り、ワンフロアの展示構成でした。周囲に飲み屋が多いという点では昨年の方が便が良かったんですが、やはり一つにまとまっていたほうが見回りやすいですね。

 展示については毎年同じことを書いている気がしますが、例年通りでした。特に新機軸もなく型通りの構成でした。国内作品は既に見知っているものも多いので、新しい視座を探したもののあまり成果はなかったですし、商業アニメーションの評価にはすごく偏りがある気がしますし、見た目に華やかな作品が前面に出ていて表象の本質を見ていない気がしますし、コミックの展示には今さら感がすごくありますし。『夜明け告げるルー』の大賞獲得は、審査員が作品のストーリーラインを見ていないのではないかと不安になりました。映像文化だからといって可視的表象の表現だけで評価を定めてしまうのは間違っていると思います。『トリコ』の大賞受賞も同様。アートとして評価するなら引っ張り上げるべき作品がもっとあったと思います。

 これも毎年書いている気がしますが、けなしているのではなく、定型が決まっているイベントとして手堅くまとまっているということで、十分に楽しめるイベントでした。水準を保っているので問題はないと思います。

 

【本年の収穫】

 では、収穫の物色に参りましょう。アートもアニメもコミックも商業ベースのものは未見のものがあまりなかったので、今年も内外のアートアニメで未見のものを中心に物色することになりました。これまた昨年も同じことを書きましたが、これらの中から臆面もなく今年の極私的回顧にぶち込む可能性もあります。

 

・Panderer (Seventeen Seconds)

vimeo.com

 今回、一番面白く感じてしまった作品がこれです。贈賞理由で「インスタ脳の観客」という表現が使われていましたが、一昔前はインタラクティブで分単位に切断された映像体験を許容していた我々の脳は、膨大な情報にさらに細切れにされ、秒単位に加工されたリニアで断片的な消費しかできなくなっているのかもしれません。膨大な量の情報を日々消費し、1つの対象をじっくり味わうことのない自分に対する強烈な皮肉として突き刺さってきました。もちろんこれで自分の消費行動が改善されることはないわけですが・・・。

作品概要

映像の中の作者が観客に語り掛け、その横ではコンマ100秒の単位で経過秒数がカウントされる。作者は「美術館で、平均的な鑑賞者がアート作品を見るのに使う時間は1作品につき約17秒であり、この映像作品はその制約を受け入れて17秒という理想的な鑑賞時間を正確に守っている」と語る。10秒を過ぎたあたりで、この作品で伝えるべき内容はすべて語られた旨が告げられ、17秒になったところで、画面が黒くフェードアウトする。映像作品は作品の意味を伝えるための重要な要素として時間に依存する。しかしこの作品では「平均的な鑑賞者」の非現実的な要求に従うことで、ある意味論理的な体裁を取りながら、アートを鑑賞するという体験に対して私たちが持っている期待感をユーモラスに皮肉っている。

 

・The First Thunder

vimeo.com

vimeo.com

 昨年、『Among the Black Waves』を取り上げましたが、それと同じロシアのウラル国立美術大学の制作陣による卒業制作だそうです。いろいろチェックしていてもこういう作品が未見になってしまうことが悔しいですね。

 オリジナルストーリーですが、冬眠から目覚めたキャラクターたちが春の訪れを祝い、ことほがれた世界へと飛び出していく、ファンタジーというよりはもっとアニミズム的なメルヘンの世界です。シンプルですが磨き込まれたストーリーライン、水彩の作画だという美しい作画、キャラクターが変態・変容する様の多様な美しさ、オーケストラを併せた音楽の演出など、若い作者の清々しくきらめくような感性と遊びとクリエイティビティが作品に溢れていました。ウラルからはまだまだ力のあるクリエイターが出てきそうで、面白そうです。

vimeo.com

vimeo.com

vimeo.com

vimeo.com

vimeo.com