『未知の鳥類がやってくるまで』短評
今回のレビューは今年3月発売の西崎憲『未知の鳥類がやってくるまで』です。
西崎憲 (@ken_nishizaki) | Twitter
8年ぶりとなる西崎憲の新作小説作品集。過去の作品には強度の幻想・ファンタジーを意識した作品もありましたが、今回は日常に隣り合う幻想を主題としたエブリデイマジックの短編が10本。強度な幻想でもなく衒学でもなくスペキュレイティヴでもなく、称するなら「奇妙な味」的な作品が並びました。
散文詩のごとく研がれた文章で淡々と綴られる日常からのずれ・ねじれは、地に足がついていて静かであるがゆえに読者の琴線に沁みてきます。半覚醒で現実と夢のあわいを歩くような読書体験は、西崎憲の過去作にはなかった感覚のような気がします。ここに読者の日常を重ね合わせること、読者もまた現実と夢想の境界をさまようことができます。
ある程度文芸誌・文藝誌を追っている方なら目にしたことのあるだろう短編が多いですが、幻想短編として1つにまとまることでまた別の味わいがあります。西崎憲の新しい境地を垣間見ることのできる佳作短編集。肩肘張らずに好きなお酒を傾けるような気分で、軽く酔ったような感じで余韻を楽しむのが乙でしょう。